『レディ・イン・ザ・ウォーター』M・ナイト・シャマラン監督 新宿ミラノ1

M・ナイト・シャマラン監督は大好きな監督だ。まずはシャマランのこれまでの映画の話。
シャマラン監督といえばラストの「オチ」に大きな仕掛けを持ってくる事で有名です。それはただ観客を驚かすだけの仕掛けではなく、作品の主題そのものを強烈にアピールするための演出として、その「オチ」は用意されています。
シックス・センス』は、結末が予告編観ただけでバレバレで、それほど印象にのこる映画ではなかったけど、『アンブレイカブル』は最後まで主題だと思わせていた話題を最後に反転させる事によって、人の弱さと悲しみを強烈にアピールした。それはハリウッド映画にある、ヒロイズムや希望とか信頼とかを全てなぎ倒してしまうかのようなもので、不意に後ろから投げ飛ばされてしまったような驚きだった。
次の作品『サイン』ではラストの「オチ」で、弱さと悲しみを背負った人間を再生させるという、『アンブレイカブル』で否定した主題を、さらに反転させて、今度は肯定してしまうという荒技を見せた。
『サイン』は、「今更誰がミステリーサークルの映画なんか見るのか?」という感じがするし、興味無い人も多いだろう、実際評価も高くないと思う。この映画は『アンブレイカブル』とワンセットで考えなければならないからです。順番も『アンブレイカブル』→『サイン』と観なければいけません。しかしこの二作で私はシャマランに耽溺してしまった。


 次の『ヴィレッジ』は、シャマランの新境地になっていた。『ヴィレッジ』の主題は「愛と無垢」
「無垢ゆえに強い愛で結ばれた二人が、無垢である者によってその愛を壊されてしまうわけですが、それを救うのはやはり愛」書いてて自分で恥ずかしくなってくるけど、この歯が浮くような物語が、出演者たちの素晴らしい演技によって説得力を持って迫ってきます。そして物語もラスト近くになって本当のテーマが見えてきます。それは「無垢である事が本当に幸せなのか?」というものです。今回の作品がシャマランの新境地になっているといったのは、『アンブレイカブル』と『サイン』の時のようにテーマを押し付けているのではなく、『ヴィレッジ』では観客に判断をゆだねている点にあります。
 作中で幼い子供を病気で亡くした父親のセリフに「人は悲しみから逃れることはできない」「悲しみとともに生きねばならないのだ」というのがあってこれがすごくひびいた。それは「人は汚れから逃れることはできない」「汚れとともに生きねばならないのだ」と言い換えることができるのではないか。「無垢である事が本当に幸せなのか?」とうい問いには自分はこう思う。

そしてやっと、『レディ・イン・ザ・ウォーター』の話。この映画はスタッフロール後に記されるように、子供にきかせるために作られた童話です。ですからあまり深く主題とか考えずに、物語の面白さにワクワクしながら観ればいいのです。でも、それでは物足りないので少し感想を書きます。
前作『ヴィレッジ』の中に「人は悲しみから逃れることはできない」「悲しみとともに生きねばならないのだ」という愛する者を失った人の悲痛な叫びがありました。『レディ…』に出てくるポール・ジアマッティー扮するグリーブランドは過去に愛する者を失っていて、その悲しみから逃げ出そうと、世捨て人のような生活をしている。
そんなわけで『レディ…』は『ヴィレッジ』から繋がっているとも取れます。『ヴィレッジ』で悲しみを封印していた人がした行動は、若者に期待することくらいでしたが、本作では、水の精に会ったことをきっかけに、悲しみと向き合い、希望のために戦います。
アメリカの対テロ戦争などによって混沌としている世界の中で、子供たちに希望を持たせられる話をシャマランは作りたかったのだろう。
以下はかなりネタバレになるので、映画を見た人だけ、枠内のテキストを選択して読んでください。

要は救世主(メシア)を誕生させる話です。
そして、メシア誕生の直截のきっかけを作る、青年のビッグ・ラン(シャマラン監督自ら演じている)だけ、自分の運命を教えられます。妹の子供が二人生まれた時点で彼は死ぬという、具体的な時期まで知らされます。これにはどういう意味があるのでしょう? これは、シャマラン監督が思い描く「より良い世界」のイメージと深い関わりがあるのではないでしょうか? 「いずれ若くして死ぬことを知っている人間が世界のために思い描くイメージ」が、それを探るキーワードでしょう。シャマラン監督自身がビッグ・ランを演じているところが意味深だもの。

映画終わってスタッフロールにクリストファー・ドイルの名前が。撮影いい感じでしたものね。
『ヴィレッジ』に続いてブライス・ダラス・ハワードが出ていますが、この女優大好き。独特な雰囲気を持っていて、繊細だが芯の強さを持った感じ。父親のロン・ハワード監督は、彼女を主演に『スプラッシュ2』を作るべきだ。あ、ジョン・キャンディがもう死んでいるからダメか…

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