『hon-nin/本人』vol.00

松尾スズキをスーパーバイザーとした季刊誌の創刊号。
講談社の文芸誌『ファウスト』の成功以降、新しい試みの文芸誌『エソラ』『B-Quest』『少年文芸』などが出てきたけど、『B-Quest』なんて明らかに「柳の下のファウスト」を狙っているかに見えて小説のラインアップが…
そんな中出てきた『hon-nin』は私小説私小説的をテーマにした試み。さてどうなる事でしょう?

いきなりこのマンガ衝撃的。
主人公の女性マンガ家が、才能が無い事を嘆きながらもお金を稼ぐためにマンガを書き続けている。彼女は一人の病気で閉じこもっている女の子を養っている。が、彼女が自分の才能に自信が無いのは、その女の子が20歳まで描いていたマンガを超える事ができないからだ。彼女は罵倒を浴びながらも焦ってマンガを書き続ける。その女の子(本当の天才)が目覚めてくる前に描かなければと思っている。そして「本当の天才が目覚めたら私は消えます」と考えている。という独白のマンガだった。
これって主人公が安野モヨコ自身であり、病気で閉じこもっている天才の女の子とはズバリ岡崎京子であると思います。
物を作っている人たちが思い悩む絶対的な壁についての赤裸々な告白のように読めてとても驚きました。これは魂の叫びですよ。
創刊号の巻頭にいきなりこのマンガを持ってきた事でこの文芸誌の方向性が決定的に示されたと思います。

「作品が完成してしまう恐れ」の話が面白かった。舞台などの出来が完成されてしまうとそれがピークで、後は下がっていくしか無い。「未完成な部分があるってことは、そこから先に進める」って言う話でした。
様々な作品を精力的に作り続けているからこそ言える言葉だね。

  • 「君は白鳥の死体を踏んだ事があるか(下駄で)」01 宮藤官九郎

クドカン初の小説。恥小説を目指しますってことですが、彼のドラマの方が百倍面白いです。白鳥おじさんとの会話は面白かったけど。

辛酸なめ子さんは小説の時は本名で書いてます。彼女の文章はけっこう好きです。
ええ、男はみな馬鹿ですよ。彼女の言っている事はほとんど正解です。女性に対してはいつもバカすぎます。でもたいがいの男はそれを自覚しています、ご安心を。ごくまれにそれを自覚できない男がいるのでそれに注意していればいいのですよ。
で、まだエッセイのようなこの小説どう展開していくのでしょう?

面白かった。オマーン小唄とか。
女性ジャズ歌手のMCを語りに使っているところでこのマンガはもう勝ったも同然ですね。

  • 「hon−nin 列伝」吉田豪 第一回ゲスト=荻野目慶子

壮絶な人生を振り返っていただくという趣旨のインタヴュー。
彼女の著書『女優の夜』の話が出てくるが未読なのでよくわからず。しかし、死をトラウマとして抱えてしまった人生は凄まじく、そのトラウマを増長、継続させたのはマスコミなわけです。追いつめられた時の精神状態は体験してみるまで本当の辛さがわからない。みたいなことを言っていて、そこへ追い込むのはマスコミであったり、その報道をほしがる人たちであったりするわけで、自分自身もそういった記事につい目がいってしまう事が多々ある。ただそういった記事へお金を払う事だけはやめていこうと思う。

堤幸彦はテレビ作品『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『トリック』なんかは大好きなのですが、映画になるといつもいまいちです。小説はどうなんでしょう?
出だしは軽快でいい感じなのですが、70年代学生運動の話が続いて、さほど興味の無い自分は退屈しました。しかし、最後にひょんな事からクラスの代表にされ、学生運動に本格的に巻き込まれていく場面で終わっていて、続きに期待しましょう。

ラジオの放送を紙におこした物です。松尾スズキの序文、ビートたけしの思い入れの強さはすごいです。
自分はこれ読んで面白いとは思えなかった。ビートたけしは好きだけれども、たまに彼の感覚と自分との間に温度差があるような気がする。

この本を「本人」をテーマにした文芸誌にと提案した松尾スズキ自信の小説なので、どんなものを書いているか興味津々だった。
この作中で松尾スズキ自信の作品をいろいろと卑下するのだけど、この卑下した部分はみな松尾自身が誇りに思っている部分ばかりのような気がします。つまり彼が『hon-nin』で目指していたのって、あくまで自分自身を素材にした作品であって、自分をさらけ出すパワーを込めた作品、つまり私小説を書けってことではないのかも。せっかく安野モヨコが『よみよま』で、さらけ出すパワーを見せたのにね。

タイトルを忘れてしまったが、文芸誌に掲載されていた本谷有希子の小説を読みした事があった。数ページ読んだだけだったが男としてたいそう凹んでしまった。辛酸なめ子の男に対するアイロニカルな発言はかなり笑って済ませられるのだけど、本谷有希子の発言はなんか思うとこあってグサリとくる。
これは彼女が19歳の時に書いた小説を改正したもの。
面白かった。かなり自意識過剰だが、19歳にして自嘲気味に自分を客観視できるほんたにちゃんにはかなり共感できました。
ちゃんと本谷有希子の小説が読みたくなった。

ほんと何もたいしたことが起きない日記マンガ。いつもの中川マンガの方が断然面白いですよね。欄外の編集の言葉「シュールな毎日を送る中川いさみ先生に…」って言葉が一番シュールだわ。

すごく天才的なマンガを描く天久聖一。これで小説まで凄かったら偉い事ですが、なんか面白くなりそうな予感。
妄想による脳内ミッションスクールの話と看守時代の話が交錯して書かれていて、これからどうなっていくか展開が凄く楽しみ。
天久聖一が元看守だったっていうことですよね? びっくりだ。この時のエピソードがこれから出てくるのだろうね。

泉美木蘭という人はよく知らなかったですけど、彼女も起業して失敗、借金700万円つくってしまったそうです。
まあ、何となくありがちな業界かぶれの悲惨な奴らって小説です。

  • 「続いての神様どうぞ」とんだばやし

本誌のテーマの「本人」関係無しだが、面白い。
ただ、「白人のワキが臭い」っていうネタが出てくるのだけど、よく見かけるんですよねこの「白人の体臭」ネタ。もういい加減「白人の体臭」をネタにするのはやめよう、差別ネタだし。

映画『マグノリア』のトム・クルーズのやってた役そのままみたいな話で驚きましたが、こちらにはダークサイド入ってます。それ故にリアリティがある。朝鮮人として差別されながらも、朝鮮人としての誇りが持てなかったというところが胸を打つ。

この人も知らなかったのですが、出している本が『去年ルノアールで』っていう『relax』に連載してたエッセイにして無気力文学らしいです。
バスケット中の「ヘイ」についての考察とか全く面白くなく、比喩的表現が連続したりと、小説のページを埋めているだけのようにしか感じられない。と思っていたら、突然下級生がやって来た時の場面は緊迫感たっぷりで凄く先を気にしてしまった。が、しかしその後の落しは無いでしょう。夢落ちのようでがっかりです。一回こういうハズシをかますと、今後相当面白い展開にもっていかないと、またかと思ってしまうだけなので要注意です。
本誌の様な「本人」をテーマにした作品群には必ずでてくるであろうメタフィクションな物なので、本作にはこれからの展開に期待です。


小説が初めての人や、本業で無い人、まだあまり書いていない人が多くセレクトされているので、まだまだ小説としてうまく書かれていないと思える作品が多かったような気がします。
安野モヨコの作品はダントツ凄くて、一つ浮いている感じ。他は池松江美本谷有希子天久聖一が良かった。次が楽しみ。