書店員のための『ドラえもん』講座 補足1
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: コミック
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この巻には、
- 旅行窓セット
- 手品ふろしき
という2編の、〈てんとう虫コミック〉〈プラス〉未収録の作品が載っています。
書店員のための『諸星大二郎』講座
諸星大二郎の著作は、絶版、そして再編集されて発売と、いくらか複雑になっています。書店員的に何を店に置こうか、お客様に問い合わせを受けたときどう答えようか? お悩みの方に、またもやザックリとですが、今流通している諸星作品をまとめてみました。
もちろん、書店員でなくとも、諸星の本で何を買っていいか迷っている人にも参考になると思います。
書店員としては、
という感じで、六つのカテゴリーにわけて考えるといいかと思います。
普段はシリアスな物を描く事が多い諸星ですが、不条理でユーモラスな作品も多く、それらはここでは"モロ☆"と呼びます。
〈西遊妖猿伝〉
双葉社の「月刊スーパーアクション」に1983年から連載され、「コミックアクションキャラクター」などを経て、潮出版社の「コミックトム」に1997年まで連載された、諸星最長のシリーズ。
孫悟空、玄奘、八戒らと共に天竺へ取経の旅をする諸星版『西遊記』です。史実とフィクションを織り交ぜた、原典とは別の物語。
第1部大唐篇、第2部河西回廊篇、第3部西域篇、第4部天竺篇の4部構成になっていますが、現在は第2部が完結した時点で、10年間中断されたままです。
この『西遊妖猿伝』には双葉版と潮版と2種類あってどちらもまだ流通(双葉版は一部品切れ)している商品なので注意が必要です。
『西遊妖猿伝』双葉版 全9巻
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 1984/03
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『西遊妖猿伝』潮版 全16巻
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 潮出版社
- 発売日: 1998/03/01
- メディア: コミック
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双葉社で出ていた第1部大唐篇に大幅な加筆修正がされている。
加筆修正をしたということは諸星自身は潮版を正伝と考えているだろうから、こちらを手にするのが一般的でしょう。
双葉版は、7、9巻が品切れ、もしかしたら、このまま重版されずになくなっていくかも知れません。
〈妖怪ハンター〉
元々「週刊少年ジャンプ」に連載された、考古学者稗田礼二郎を狂言回しとして、日本各地で起こる怪異を綴る連作シリーズ。
考古学、民俗学、神話などをネタに語られる怪奇な事件の数々。大名作であり、諸星入門に最適のシリーズ。
ちなみに『妖怪ハンター』というタイトルは「少年ジャンプ」の編集者が付けたタイトルで、元々主人公の稗田礼二郎は「古事記」の口伝者稗田阿礼からきているため、稗田自身が妖怪をハントするものではない。なので、諸星自身はこのタイトルが気に入っておらず、後に『稗田礼次郎のフィールド・ノートより』、『稗田のモノ語り』などのサブタイトルが付けられたりしています。
『妖怪ハンター 地の巻』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/11/18
- メディア: 文庫
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- 妖怪ハンタープロローグ
- 黒い探求者
- 赤い唇
- 生命の木
- 海竜祭の夜
- ヒトニグサ
- 闇の客人
- 蟻地獄
- 闇の中の仮面の顔
- 死人帰り
プロローグが追加され、長い事読む事のできなかった「死人帰り」が収録されました。
『妖怪ハンター 天の巻』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/11/18
- メディア: 文庫
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- 花咲爺論序説
- 幻の木
- 川上より来たりて
- 天孫降臨
- 大樹伝説
- 樹海にて
- 若日子復活
- 黄泉からの声
- 井戸のまわりで
- 黄泉からの声
- 天神さま
以前集英社から出ていた『妖怪ハンター 天孫降臨』には『「花咲爺論序説」と「幻の木」事件−概要−』という作品が収録されていましたが、これはタイトルの通り、「花咲爺論序説」と「幻の木」のあらすじを稗田が語るという物でした。後に語られる話しに関連のあるエピソードなので、未読の人用に作られた物なのですが、『天の巻』には、「花咲爺論序説」も「幻の木」も収録されているので、未収録となってしまいました。
『妖怪ハンター 水の巻』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/12/13
- メディア: 文庫
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- 産女の来る夜
- 淵の女
- うつぼ舟の女
- 海より来るもの
- 鏡島
- 六福神
- 帰還
ちなみに読む順番は『地』→『天』→『水』という順番がベターです。
〈諸怪志異〉
「漫画アクション」などで連載されていた、三国志時代の中国を舞台に修道士の"五行先生"と、弟子の霊感少年"阿鬼"が怪異を解決していく連作シリーズ。
諸星中国物の入門的書。
『諸怪志異』文庫版 現在2巻まで
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/01/16
- メディア: 文庫
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〈栞と紙魚子〉
少女雑誌の「ネムキ」に連載された連作シリーズ。
書店の娘"栞"と、古本屋の娘"紙魚子"が奇妙な人々が住む奇妙な街で体験する奇妙な出来事。不条理でユーモラスな"モロ☆"マークな作品。
『栞と紙魚子』A5版 現在5巻まで
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 1996/09
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〈その他のシリーズ〉
上記のシリーズ以外の連作、連続ものです。
『暗黒神話』文庫版
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1996/11/15
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- 「暗黒神話」
これも「週刊少年ジャンプ」連載された著者の長編伝奇ミステリーの原典。
日本神話を題材に荒唐無稽ともいえるアクロバティックな展開でぐいぐいと読ませ、諸星的ストーリーテリングにはまれます。
諸星大二郎の長編入門書的本。
- 「徐福伝説」
「史記」に載っている、秦の始皇帝に、「東方の三神山に不老不死の霊薬がある」と申し出て、始皇帝の命を受け、財宝と共に若い男女数千人を従えて秦から東方に船出した、伝説の人物徐福を題材にした短篇。
『孔子暗黒伝』文庫版
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1996/11/15
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論語ネタ満載で、古代中国、インド、日本はおろか宇宙や未来まで、縦横無尽に展開する、諸星哲学の炸裂した大作。
『暗黒神話』の姉妹編。
『マッドメン』
「少年チャンピオン」に連載。
ニューギニアから来た刺青の少年コドアと日本の少女波子が主人公。民俗学をネタに壮大なる話しをでっち上げた傑作。連作短編ですが、後半壮大な話しへと広がっていきます。
- 『マッドメン 1 オンゴロの仮面』文庫版
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社クリエイティブ
- 発売日: 2006/07/14
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- 『マッドメン 2 大いなる復活』文庫版
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社クリエイティブ
- 発売日: 2006/07/14
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- 「マッドメン」
- 天国の鳥
- 黒い森のナミテ
- 変身の森
- 大いなる復活
- 鯖イバル ★
- ダオナン ★
- ラストマジック ★
- 王の死 ★
以前ちくま文庫版で出ていたように「マッドメン」だけまとめて一冊にして、他の短編は別に短編集としてまとめて、2冊にしても良かったのでは?
他に流通している『マッドメン』にオリジナルのチャンピオンコミックス版もありますが、「鳥が森に帰る時」が収録されておらず、完全版ではありません。
『無面目・太公望伝』文庫版
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 潮出版社
- 発売日: 2001/12/01
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両作品とも「月刊コミックトム」に連載。
- 「無面目」
天地開闢の前から思索にふけるといわれる顔のない神"混沌"に、二人の神仙が、戯れに顔を描いたところ、感情、欲などが生まれていき、次第に人間になっていく。
その"混沌"を主人公に武帝時代の「巫蠱の獄」事件を舞台とした作品。
- 「太公望伝」
古代中国、周の文王の軍師とされる呂尚は、文王に「これこそ大公の望んでいた人だ」といわれたことから、太公望と呼ばれる事になりますが、その呂尚(姜尚)が太公望として世に出るまでの物語。
宇宙を支配する原理であるブラフマンと、個人を支配する原理であるアートマンが同一であることを知る事によって、永遠の至福に到達しようとする思想を"梵我一如"(ぼんがいちにょ)と言います。この梵我一如の悟りの境地から、だんだん俗な世界へ落ちていく話しが「無面目」で、偶然梵我一如を体験した男が、艱難辛苦のすえ再び梵我一如へ到達する物語が「太公望伝」というわけで、この二つはワンセットになっています。
二作品とも「月刊コミックトム」に連載。
『海神記』上下巻
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/07/01
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海神記[下] (光文社コミック叢書〈SIGNAL〉 (0007))
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/08/31
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「ヤングジャンプ」後に「月刊コミックトム」で連載。
上下巻で4000円もするけど、まだ未完。1巻、2巻とせず、上下巻にしたということは、続きを描く予定がしばらく、無いということなのか? しかし、長い間絶版だった本なので復刊はうれしいところ。
『碁娘伝』文庫版
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 潮出版社
- 発売日: 2007/06/25
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A5版もまだ流通しています。
「諸星版博物誌」
「モーニング」で連載。
- 『私家版鳥類図譜』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/03/18
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- 『私家版魚類図譜』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/03/23
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「グリムのような物語」
- 『トゥルーデおばさん』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 2006/02/23
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「ネムキ」で連載。
- 『スノウホワイト』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/11/30
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「ミステリーズ!」で連載。
〈短篇〉
諸星の真骨頂とも言える短編。他の漫画ではなかなか味わう事のできない作品が多く、怪奇、幻想、SF、ギャグなどジャンルも色々とあります。
『失楽園』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 創美社
- 発売日: 1988/05/10
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手塚賞を受賞した初期の大傑作SF「生物都市」はその後出てくるクリエイターたちにかなりの影響をあたえたと思います。塚本晋也監督の『鉄男』なんかは特に。
日本とアメリカの関係を逆転させた「マンハッタンの黒船」は"モロ☆"印なアイディアと遊びがいい。
『不安の立像』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 創美社
- 発売日: 1993/05/10
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- 不安の立像
- 子供の遊び
- 復讐クラブ
- 海の中
- ユニコーン狩り
- 真夜中のプシケー
- 袋の中
- 会社の幽霊
- 子供の王国
表題作「不安の立像」は現代人の心の底に潜む影を扱った怪奇コミックの白眉(恐れおおくもレヴューを書いてみました)
「復習クラブ」はフジテレビ『世にも奇妙な物語』でも映像化されたブラックな一編。
『夢みる機械』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 創美社
- 発売日: 1993/08/04
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- 商社の赤い花
- 食事の時間
- 夢みる機械
- 猫パニック
- 地下鉄を降りて
- 遠い国から
- 感情のある風景
- 地獄の戦士
大都市のリアルな恐怖を拡大させた「地下鉄を降りて」はまさに奇妙な味の傑作。
叙情的な「感情のある風景」は諸星幻想コミックの最大傑作だと思います。
『天崩れ落つる日』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社クリエイティブ
- 発売日: 1997/02/04
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"モロ☆"印なギャグ、ナンセンスな作品を中心に集めた作品集。シニカルなギャグからドタバタまで、普段、緻密でシリアスな作品を描く事が多い諸星のもうひとつの顔。
『ぼくとフリオと校庭で』文庫版
ぼくとフリオと校庭で (双葉文庫―名作シリーズ (も-09-01))
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2006/12/01
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- 方舟が来た日
- 難破船
- 鎮守の森
- ぼくとフリオと校庭で
- 沼の子供
- 流砂
- 黒石島殺人事件
- 城
- 蒼い群れ
- 影の街
主に現代を舞台にした作品が多く収録されているため比較的諸星初心者にも入りやすい作品集。でもテーマは深いです。
表題作「ぼくとフリオと校庭で」はサイモン&ガーファンクルの曲名からとられた青春ファンタジー。
「城」も『世にも奇妙な物語』で映像化されています。
エヴァンゲリオンのデザインの元ネタになったといわれている「影の街」も収録。
A5版もまだ流通しています。
『夢の木の下で』
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 1998/07/01
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- 1
- 夢の木の下で
- 遠い国から 第一信 『夢みる機械』
- 遠い国から 追伸 カオカオ様が通る
- 第三信 ナルム山紀行
- 第四信 荒れ地にて
- 2
- 壁男 PART1
- 壁男 PART2
- 壁男 PART3
- 鰯の埋葬
『壁男』文庫版
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/09/18
- メディア: 文庫
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- 1
- 壁男 PART1
- 壁男 PART2
- 壁男 PART3
- ブラック・マジック・ウーマン
- 鰯の埋葬
- 会社の幽霊 『不安の立像』所収
- 2
- 夢の木の下で
- 遠い国から 第一信 『夢みる機械』所収
- 遠い国から 追伸 カオカオ様が通る
- 第三信 ナルム山紀行
- 第四信 荒れ地にて
「壁男」の映画化によって、マガジンハウスの『夢の木の下で』に短編2編を加えて再編集されたのが、双葉文庫版『壁男』。しかし、表紙が酷すぎる、どうにかならなかったのかねこれ。
元々、それほどの傑作ではない「壁男」なのですが、映画化によって表題作になってしまたところに無理がある。
『汝、神になれ 鬼になれ』文庫版
元は、諸星の重厚な絵柄を堪能できるよう、B5版の大きなサイズで出版された諸星自身ののセレクトによる作品集。B5版は既に品切れで、今は文庫版のみ。
諸星自身どんな作品が気に入っていたか興味深い。
リストの作品名の後ろは、他に収録されている単行本のタイトルです。
諸星大二郎自選短編集 汝、神になれ 鬼になれ (集英社文庫(コミック版))
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/11/18
- メディア: 文庫
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『彼方より』文庫版
諸星大二郎自選短編集 彼方より (集英社文庫(コミック版))
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/11/18
- メディア: 文庫
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諸星の作品を一通り読もうと単行本を集めようという人には、全ての作品のかぶる『汝、神になれ 鬼になれ』は買う必要の無い本ですが、『彼方より』には「ヨシコちゃんと首たち」「桃源記」「砂の巨人」と、既に流通していない単行本に収録されている短編が3編ありますので買う価値はあります。
諸星大二郎ベスト版という本なので、初めて諸星の本を手に取る人には最適です。
品切れしている短編集
現在品切れしている短編集のリストです。★が付いているのが現在流通している単行本では読めない物です。興味のある人は古本を探してみてください。比較的プレミアが付いていない物が多いです。
どこかの出版社がこの★マークの作品をまとめて出版してくれるとありがたいのですけど。
『夢みる機械』朝日ソノラマ
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 1978/06/30
- メディア: コミック
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「浸食惑星」「ティラノサウルス号の生還」「コッシー譚」「ぼくの日記帳」の四作品が現在読めません。
『アダムの肋骨』奇想天外社
『アダムの肋骨』創美社
創美社版は、奇想天外社版に「失楽園」を収録して、「礎」を「詔命」に改題して再編集した物です。
ほとんどの作品が今読む事のできる物なのですが、「肉色の誕生」のみ未収録。これは現在品切れですが『海竜祭の夜 妖怪ハンター』創美社に収録されていて、こちらの方が古本が手に入りやすいです。
『コンプレックス・シティ』双葉社
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 1992/12
- メディア: 単行本
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『天崩れ落つる日』の様にギャグ中心の単行本です。「人をくった話」「砂漠の真ン中に」「ふしぎなナプキン」「むかし死んだ男」「ジュン子・恐喝」の5編と、今読めない作品が多いのでこの本も貴重です。
特にデビュー作「ジュン子・恐喝」は読んでみたい作品。
『地獄の戦士』集英社
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1981/03/25
- メディア: 新書
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こちらも、収録されている作品は全て今読む事ができます。
『子供の王国』集英社
子供の王国―諸星大二郎珠玉短編集 (ジャンプ・コミックスデラックス)
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1984/08/15
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「オー氏の旅行」のみ読めません。
『砂の巨人』朝日ソノラマ
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 1984/10
- メディア: コミック
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- ロトパゴイの難船 ★
- 砂の巨人 『彼方より』
「ロトパゴイの難船」が読めません。
出版社への希望
メディアファクトリーの『幽』に掲載されている作品はいずれ、纏められて単行本化するでしょうし、『ウルトラジャンプ』の「未来歳時記」シリーズもいずれ集英社から単行本が出るでしょう。
が、現在手に入りにくい作品を纏めてみると、
かつて単行本に収録されていたが、現在入手困難な作品。
- 浸食惑星
- ティラノサウルス号の生還
- コッシー譚
- ぼくの日記帳
- 肉色の誕
- 人をくった話
- 砂漠の真ン中に
- ふしぎなナプキン
- むかし死んだ男-
- ジュン子・恐喝
- オー氏の旅行
- ロトパゴイの難船
単行本未収録の作品
- 硬貨を入れてからボタンを押して下さい
- 現代間引考
- 青ひげおじさん
- 女は世界を滅ぼす
- ミノスの牡牛
- ドクター・モロの逆襲
- 闇の鴬
- 星山記
- 涸れ川
- 瀕海粟木町怪異譚 それは時には少女となりて
- 猫六先生執筆録
- 空気のような…
- 人魚の記憶
以上の25作品ををどこかの出版社が纏めて単行本化してくれるのを強く希望。
〈小説〉
『キョウコのキョウは恐怖の恐』
「小説現代 メフィスト」などに掲載された小説集。日常に潜む「恐怖」を描いたホラー小説集。
表紙画、挿絵なども諸星が描いてます。
現在品切れのようで、既に手に入りにくいかもしれません。書店で見つけたらすぐ買いましょう。
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/11/30
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- 狂犬
- 秘仏
- 貘
- 鶏小屋のある家
- 濁流
『蜘蛛の糸は必ず切れる』
ホラー小説集第二弾。
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/09/11
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- 船を待つ
- いないはずの彼女
- 同窓会の夜
- 蜘蛛の糸は必ず切れる
まとめ
何から買っていけばいいか?
- 手広く諸星の作品群を俯瞰したいなら、自選短編集の『汝、神になれ 鬼になれ』『彼方より』を。
- ですがやはり一番のお勧めが「妖怪ハンター」シリーズ。これは『地』→『天』→『水』→『魔障ヶ岳』という順番で読んでください。
- 長編で最初に読んだ方がいいのは『暗黒神話』です。
- 中国物でお勧めは『諸怪志異』一話読み切りのシリーズです。
- コメディなど軽い読み物が読みたいなら『天崩れ落つる日』『栞と紙魚子』がお勧め。
- ま、基本的に諸星作品は、どんな順番で読んでもかまいません。
- ここまで読んできたら『海神記』や『西遊妖猿伝』が読みたくなっているはずです。
書店になにを置けば良いか?
- 今は映画化もあり、新刊である『壁男』が当然一番売れています。値段が高くとも『海神記』も新しいので売れています。
それ以外では優先順位はこんな感じです。今までの経験による独断で、実際の販売実績に基づいているわけではありません。
まず文庫がよく売れています。
- 『妖怪ハンター 地の巻』『天の巻』『水の巻』
- 『暗黒神話』『孔子暗黒伝』
- 『汝、神になれ 鬼になれ』『彼方より』
- 『諸怪志異』
- 『ぼくとフリオと校庭で』
- 『無面目・太公望伝』
- 『栞と紙魚子』
- 『マッドメン』全2巻
- 『碁娘伝』
以上を上から優先に棚に許す限り入れていきましょう。
次にA5版の本の優先順位です。
- 『私家版鳥類図譜』『私家版魚類図譜』
- 『トゥルーデおばさん』『スノウホワイト』
- 『魔障ヶ岳 稗田のモノ語り 妖怪ハンター』
- 『不安の立像』
- 『失楽園』
- 『夢みる機械』
- 『諸怪志異』全4巻
- 『天崩れ落つる日』
- 『栞と紙魚子の生首事件』『栞と紙魚子と青い馬』『栞と紙魚子殺戮詩集』『栞と紙魚子と夜の魚』『栞と紙魚子何かが街にやって来る』
「諸星版博物誌」と「グリムのような物語」は比較的刊行が新しいので今でもよく売れます。それ以下はそれほど大きな差はありません。
『夢の木の下で』マガジンハウス版は『壁男』双葉文庫版が出たので必要は無いかもしれません。しかし、『壁男』の表紙が気に入らない人はマガジンハウス版を買うかも。
『西遊妖猿伝』ですが、スペースがたっぷりある場合は潮版全16巻を全て置けばいいのですが、潮版の1〜3巻だけ置いておいて、後は客注してもらうというのがいいかもしれません。
おまけ
諸星作品には少ないですが映像化されている作品がいくつかあります。
『ヒルコ 妖怪ハンター』
- 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
- 発売日: 2000/12/21
- メディア: DVD
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アクションたっぷりのB級ホラーで、切ない青春ムービーでもあります。個人的には大好きな作品。
ヒルコが学校の廊下を疾走するカメラアングルはその後のに作られた『エイリアン3』でも見られます。
『奇談』
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2006/05/25
- メディア: DVD
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『壁男』
9/15より公開されている、諸星映像化最新作。堺雅人、小野真弓出演。早川渉監督作品。
こちらのサイトにレヴュー書いときました。
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書店員のための『藤子・F・不二雄 SF短篇』講座
藤子・F・不二雄には俗に「SF短篇」と呼ばれる作品群があります。いくつかの雑誌に読み切りとして描かれた物で、基本的には大人の読者に向けて描かれ作品です。(いくつかは子供、少年向けに描かれた作品もある)なので、『ドラえもん』や『パーマン』などに代表される子供向けの作品とはまた違ったF先生の面白さが堪能できます。
F先生は以前これらの作品群を『SF風現代アラビアンナイト』などと言っていました。その後、自分の書く作品の根底にあるテーマを「SF」と定義します。これはScience-Fictionの略ではなく、Sukoshi-Fushigi(少し・不思議)の略です。
そしてこの「SF短篇」は全112編もあるにもかかわらず、ほとんどはずれが無くて、傑作が多く、読後にさまざまなSukoshi-Fushigiを残してくれる奇跡の作品群です。
個人的に一番好きなのは、児童漫画のタブーを犯した名作『劇画・オバQ』です。オバQに思い入れがあったら涙無くしては読めません。
で、この「SF短篇」を読むには何を買えばいいのか? ですが、本来なら小学館『SF短編PERFECT版』全8巻を買えば全て揃います。1575円×8冊=12600円と高額ですが、損は無いでしょう。しかし、しかしです。またもやってくれました小学館。なんと、2巻と4巻が長い事品切れ。Amazonじゃプレミア付いてます… 恐らく残りの巻も在庫切れとともにもう手に入らなくなっていくと思われます。
『SF短編PERFECT版』はハードカバーで高額で手が出しにくいのですが、文庫版があります。コロコロ文庫『少年SF短編集』全2巻、小学館文庫『異色短編集』全4巻。中公文庫『SF短篇集』全4巻の10冊です。これだと半額くらいで全巻揃います。二つの出版社から出ていますが、重複作品が無いので安心して買えます。しかし全部買っても『SF短編PERFECT版』より10編足りません。
『少年SF短編集』コロコロ文庫全2巻
1巻 未来ドロボウ 8編
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1996/04/26
- メディア: 文庫
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- ひとりぼっちの宇宙戦争
- コマーさる
- なくな! ゆうれい
- 未来ドロボウ
- 四畳半SL旅行
- 恋人製造法
- ニューイヤー星調査行
- 宇宙船製造法
2巻 絶滅の島 9編
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1996/04/26
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- ポストの中の明日
- おれ、夕子
- 流血鬼
- ふたりぼっち
- 宇宙からのおとし玉
- アン子 大いに怒る
- 絶滅の島
- 山寺グラフィティ
- 世界名作童話
『異色短編集』小学館文庫全4巻
1巻 ミノタウロスの皿 13編
ミノタウロスの皿: 藤子・F・不二雄[異色短編集] 1 (1) (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/07/15
- メディア: 文庫
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2巻 気楽に殺ろうよ 13編
気楽に殺ろうよ: 藤子・F・不二雄[異色短編集] 2 (2) (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/07/15
- メディア: 文庫
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- ミラクルマン
- 大予言
- 老雄大いに語る
- 光陰
- 幸運児
- やすらぎの館
- 定年退食
- 宇宙人レポート サンプルAとB
- 休日のガンマン
- 分岐点
- 換身
- 気楽に殺ろうよ
- ウルトラ・スーパー・デラックスマン
3巻 箱船はいっぱい 12編
箱船はいっぱい: 藤子・F・不二雄[異色短編集] 3 (3) (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/07/15
- メディア: 文庫
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- 箱船はいっぱい
- 権敷無妾付き
- イヤなイヤなイヤな奴
- どことなくなんとなく
- カンビュセスの籤
- 俺と俺と俺
- ノスタル爺
- タイムマシンを作ろう
- タイムカメラ
- あのバカは荒野をめざす
- ミニチュア製造カメラ
- クレオパトラだぞ
4巻 パラレル同窓会 14編
パラレル同窓会: 藤子・F・不二雄[異色短編集] 4 (4) (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/07/15
- メディア: 文庫
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- 値ぶみカメラ
- 女には売るものがある
- 同録スチール
- 並平家の一日
- 夢カメラ
- 親子とりかえばや
- 懐古の客
- パラレル同窓会
- コラージュ・カメラ
- かわい子くん
- 丑の刻禍冥羅
- ある日・・・・・・
- 四海鏡
- 鉄人をひろったよ
『SF短篇集』中公文庫 全4巻
1巻 創世日記 7編
藤子・F・不二雄SF短篇集 (1) 創世日記 中公文庫―コミック版
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1994/09/01
- メディア: 文庫
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2巻 メフィスト惨歌 10編
藤子・F・不二雄SF短篇集 (2) メフィスト惨歌 中公文庫―コミック版
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1994/09/01
- メディア: 文庫
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- メフィスト惨歌
- 倍速
- マイホーム
- 侵略者
- マイロボット
- テレパ椎
- ユメカゲロウ
- 裏町裏通り名画館
- 有名人販売株式会社
- 殺され屋
3巻 超兵器ガ壱號 8編
藤子・F・不二雄SF短篇集 (3) 超兵器ガ壱号 中公文庫―コミック版
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1994/10/01
- メディア: 文庫
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- 超兵器ガ壱號
- 福来たる
- 神さまごっこ
- 影男
- 昨日のオレは今日の敵
- あいつのタイムマシン
- 耳太郎
- 宇宙人
4巻 ぼくは神様 8編
藤子・F・不二雄SF短篇集 (4) ぼくは神様 中公文庫―コミック版
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1994/10/01
- メディア: 文庫
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- ぼくは神様
- 征地球論
- 求む! 求める人
- 旅人還る
- ぼくの悪行
- 考える足
- 白亜荘二泊三日
- ベソとこたつと宇宙船
通常なら以上の文庫版10冊を買い集めれば十分かもしれません。書店にもこの10冊を売り場においておけば十分でしょう。
『SF短編PERFECT版』小学館
この作品集に納められている短篇112編がF先生の「SF短篇」全部です。
このPERFECT版が優れている点は、1巻から収録作品がほぼ雑誌掲載された順番に並べられているところにあります。作品それぞれにつながりはないにもかかわらず、この配慮は素晴らしい。逆に考えれば、時系列に作品を並べても、各巻毎のクオリティの差が出ないのがすごい。
作品タイトルの後に付いているアルファベットは、収録されている文庫の略号です。数字は巻数です。
- K =『少年SF短編集』コロコロ文庫
- S =『異色短編集』小学館文庫
- C =『SF短篇集』中公文庫
- ★ =文庫版未収録の作品
1巻 ミノタウロスの皿 Dish of Minotauros
藤子・F・不二雄SF短編集
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2000/07/25
- メディア: 単行本
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2巻 定年退食 Retiring Age from Eating
藤子・F・不二雄SF短編集
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2000/08/25
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- 休日のガンマン S2
- 定年退食 S3
- 権敷無妾付き S2
- ミラクルマン S2
- ノスタル爺 S3
- コロリころげた木の根っ子 S1
- 間引き S1
- 箱船はいっぱい S3
- やすらぎの館 S2
- アン子 大いに怒る K2
- ポストの中の明日 K2
- どことなくなんとなく S3
- ボクラ共和国 ★
3巻 俺と俺と俺 Me and Myself and I
藤子・F・不二雄SF短編集
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2000/09/25
- メディア: 単行本
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- なくな! ゆうれい K1
- 3万3千平米 S1
- ひとりぼっちの宇宙戦争 K1
- 分岐点 S2
- ぼくのオキちゃん ★
- 世界名作童話 K2
- ウルトラ・スーパー・デラックスマン S2
- T・Mは絶対に S1
- 幸運児 S2
- 1千年後の再会 S1
- おれ、夕子 K2
- 大予言 S2
- 老雄大いに語る S2
- 光陰 S2
- 俺と俺と俺 S2
- 女には売るものがある S4
- みどりの守り神 C1
- 耳太郎 C3
4巻 未来ドロボウ Stolen Future
藤子・F・不二雄SF短編集
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2000/10/25
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- カンビュセスの籤 S3
- ユメカゲロウ C2
- 考える足 C4
- オヤジ・ロック S1
- 宇宙人レポート サンプルAとB S2
- ぼくは神様 C4
- スタジオ・ボロ物語 ★
- 未来ドロボウ K1
- 宇宙人 C3
- あのバカは荒野をめざす S3
- 老年期の終わり C1
5巻 メフィスト惨歌 An Elegy for Mephisto
藤子・F・不二雄SF短編集
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2000/11/24
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6巻 パラレル同窓会 Parallel Reunion
藤子・F・不二雄SF短編集
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2000/12/21
- メディア: 単行本
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7巻 タイムカメラ Time Camera
藤子・F・不二雄SF短編集
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2001/01/25
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- かわい子くん S4
- テレパ椎 C2
- ニューイヤー星調査行 K2
- 旅人還る C4
- 白亜荘二泊三日 C4
- タイムカメラ C3
- 福きたる C3
- ミニチュア製造カメラ S3
- 値ぶみカメラ S4
- 同録スチール S4
- 求む! 求める人 C4
- タイムマシンを作ろう S3
- 夢カメラ S4
- ある日・・・ S4
- 倍速 C2
- コラージュ・カメラ S4
8巻 鉄人をひろったよ We Found an Iron Man
藤子・F・不二雄SF短編集
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2001/02/24
- メディア: 単行本
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- 懐古の客 S4
- 四海鏡 S4
- 昨日のオレは今日の敵 C3
- 侵略者 C2
- 親子とりかえばや S4
- 宇宙からのおとし玉 K2
- 殺され屋 C2
- マイホーム C2
- 丑の刻禍冥羅 S4
- 鉄人をひろったよ S4
- マイ・シェルター C1
- 裏町裏通り名画館 C2
- 有名人販売株式会社 C2
- 異人アンドロ氏 ★
- 絶滅の島 K2
以上のリストを見てわかるのは、文庫未収録10編のうち、5編が1巻に集中している事です。ですから、文庫版しか持っていない人でも、これ1冊で5編も文庫未収録が読めます。他にも文庫未収録が入っているのは2、3、4、6、8巻。5、7巻には文庫未収録はありません。現在品切れしているのは、2、4巻なので、「ボクラ共和国」と「スタジオ・ボロ物語」の2編が今現在簡単に読めない「SF短篇」というわけです。
6巻に収録されている「絶滅の島」は、8巻の「絶滅の島」の元になった作品で、6巻版がフィルムのコマを模したセリフの一切無い実験作で、8巻がそれにセリフを付けた通常版になっています。内容は同じだけど、手法がまったく違うので、面白いです。
未収録作品10編が気軽に読めるように、小学館文庫の『異色短編集』か中公文庫『SF短篇集』のどちらかが、第5巻を出して、それらを収録してくれれば良いのですけどね。
あるいは、小学館がソフトカバーで廉価版の『SF短編PERFECT版』を出す予定があるかもしれません。
おまけ
F先生の作品共通のテーマでもある、SF「少し・不思議」(Sukoshi-Fushigi)ですが、そのSFマインドをかなり意識的に受け継いでいる作家が、辻村深月です。
『凍りのくじら』という小説ではSFをキーワードに言葉遊びをとおして人の内面を捉えていく女性が主人公です。彼女は自分のことを「少し・不在」と考えています。その他『ドラえもん』ネタもたっぷり詰まっているのでファンにはお勧めです。
- 作者: 辻村深月
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/11/08
- メディア: 新書
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書店員のための『ドラえもん』講座
幾世代からも愛されている『ドラえもん』ですが、世の中には簡単には読めない『ドラえもん』がたくさんあります。ドラえもんにはおよそ1200編以上の作品があると言われてますが、単行本に収録されていない作品も多く、作者の藤子・F・不二雄(以下、F先生)自ら封印してしまった作品や、学年誌の3月号に掲載された幾つかの最終回など、現時点では簡単に読むことはできせん。
現在『ドラえもん』のコミックスは数種類出ているので、多少煩雑になっています。今流通しているコッミックスを中心に書店員(主にコミック担当者)として知っていればいい程度解説。書店用なので、コンビニ用のコミックスは扱っていません。
〈てんとう虫コミックス〉
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1974/07/31
- メディア: コミック
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おなじみ『ドラえもん』コミックスの基本アイテム。とりあえずこれをベースに、他の種類を集めていくって感じでしょう。
『ドラえもん』は1969年から「よいこ」「幼稚園」「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」(1970年1月号)と複数の学年誌に同時連載されます。後に「小学五年生」「小学五年生」「てれびくん」「コロコロコミック」などにも掲載されていきます。
各学年誌ごとに対象年齢が違うため掲載作はそれぞれの年齢に合わせた内容で書かれています。ですから、第一話のドラえもん登場のエピソードだけで、6バージョンあるのです。そんな感じで各紙に掲載された作品の中からいくつかが選ばれて「てんとう虫コミックス」に収録されていきます。収録作を選んでいたのはF先生自身らしいです。つまり「てんとう虫コミックス」は「ベスト・オブ・ドラえもん」と呼べるコミックスと言えるでしょう。
そんなわけで、雑誌に掲載された順に、くまなく単行本に収録されているわけではありませんし、発表順もバラバラになっています。
それと、もうひとつ重要な点として、普通のマンガは、雑誌にカラー掲載された作品もモノクロにして収録するのですが、『ドラえもん』はそれをしていません。ですからカラー作品も未収録です。
〈カラー作品集〉
ドラえもんカラー作品集 (1) (てんとう虫コミックススペシャル)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1999/07/17
- メディア: コミック
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〈てんとう虫コミックス〉にはカラー作品が収録されなかったので、これはそれを集めたものです。ですから〈てんとう虫コミックス〉とかぶっている作品はありません。しかし、現在2、3、4巻が長いこと品切れで、重版予定があるかもわかりません。酷い話です。
〈プラス〉
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2005/03/25
- メディア: コミック
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一番最近刊行された、てんとう虫コミックスのプラスシリーズ。「藤子不二雄ランド」が絶版になっている現在、〈てんとう虫コミックス〉〈カラー作品集〉の未収録が読める! 素晴らしいシリーズ。5巻以降がなかなかでないけど、これからもファンの為に封印作品も収録していって欲しい。
以上が現時点では『ドラえもん』の「三大基本アイテム」です。これさえ集めていれば、日本人として恥かしくないはずです…
〈コロコロ文庫〉
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1994/10/28
- メディア: 文庫
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テーマ別に編集された「ドラえもんアンソロジー」みたいなものですが、同じコロコロ文庫の中で作品が被っていたり、テーマ分けしたわりには、ほとんど関係の無いエピソードが採用されていたり、あまり評判のよくないアンソロジー。
ほとんどが〈てんとう虫コミックス〉収録の作品からなのだけど、[ロボット編]のには〈てんとう虫コミックス〉と〈プラス〉にも未収録の作品が3編も入っているので絶対に買いです。
デラックス版という文庫版を組み合せたようなのも出ていますが、内容は完全に被ります。
ドラえもん[のび太・しずか編]: ドラえもん テーマ別傑作選 2 (小学館コロコロ文庫デラックス―ドラえもんテーマ別傑作選)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2000/08/10
- メディア: 文庫
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〈ぼく、ドラえもん〉
雑誌形式で全25巻。
各号の付録に未収録作品集が付いていて、2-4編づつ入っています。F先生のレアな記事も多かったシリーズなので買っても損は無いのですが、ぜんぶで25号もあるので高額です。
三大基本アイテムに収録されていない作品が多く入っていますが、これらは今後〈カラー作品集〉や〈プラス〉に収録される可能性があるものなので、毎朝毎晩小学館に向かって(一ツ橋方向)祈りましょう。
ちなみに1号には幻だったシンエイ動画のTVアニメパイロット版『ドラえもん』収録のDVDが付いていて、歴史的事件。さらに全巻予約購読の特典としてプレゼントされた「ドラえもん湯のみ」のデザインは秀逸で、恐らくドラえもんグッズの歴史の中でもっとも素晴らしい作品。
〈もっと!ドラえもん〉
雑誌形式で全5巻。〈ぼく、ドラえもん〉の続編として出たもので、これにも毎号2編の未収録が入っていましたが、資料不足で詳細がわかりません。これは1冊高いので揃えるとなると大変です。〈カラー作品集〉や〈プラス〉に収録されることを願いましょう。
〈ぴっかぴかコミックス〉
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2004/07
- メディア: コミック
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これにも、三大基本アイテムに無い作品が幾つか収録されているけど、被るものも多い。1冊300円で、安いのでいいが、今手に入るのは、1-4、11、12、14-16、ドラミちゃん、のみ。得にカラー版には他では読めないレア作品がほとんどで、これが品切れ状態というのは小学館の良心を疑う。
- 作者: 藤子不二雄F
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2005/09
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〈大長編ドラえもん〉
大長編ドラえもん (Vol.1) のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1983/11/28
- メディア: コミック
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注意しなければいけないのは、F先生が描いているのが17巻までで、後は藤子・F・不二雄プロ作品であるという点と、『のび太のパラレル西遊記』のみ原作が無いことです。
ただし、F先生は死後も映画版が続けられるように、幾つか作品のアイデアやあらすじを残していたらしいので、『のび太のワンニャン時空伝』まではそれを元にしていた可能性はあります。
〈ドラえもん巻頭まんが作品集〉
ドラえもん巻頭まんが作品集 (1) (てんとう虫コミックススペシャル)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2003/12/01
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タイトルのとおり、〈てんとう虫コミックス〉全45巻の一番最初に載っている作品だけを集めた本。何故そんな本が存在するかというと、てんとう虫コミックスに作品を収録するさい、F先生が収録予定の中で一番面白いと思うものを一番最初に持ってくるという編集方針がとられていたからです。ですからこの作品は「ベスト・オブ・ドラえもん」といえる「てんとう虫コミックス」から生まれた、「ドラえもん・ベスト・オブ・ベスト」という位置付けになります。
〈熱血!!コロコロ伝説〉
熱血!! コロコロ伝説 vol.1 1977-1978 (ワンダーライフスペシャル コロコロ30周年シリーズ)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/05/25
- メディア: ムック
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コロコロコミックに収録されていた漫画を年代別に収録したシリーズ。今のところ各号に1話〜3話『ドラえもん』が収録されています。うち各号に1話は〈てんとう虫コミックス〉〈プラス〉〈カラー作品集〉に未収録の作品が入っています。
この本は他にもF先生の手に入れにくい作品が読めます。目玉はVol.1の付録『新オバケのQ太郎』でしょう。
〈ドラベース〉
ドラベース ドラえもん超野球(スーパーベースボール)外伝 (1) (てんとう虫コミックス―てんとう虫コロコロコミックス)
- 作者: むぎわらしんたろう
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2001/04/26
- メディア: コミック
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ドラえもんと同じ世界が舞台の、むぎわらしんたろ氏の作品。第一話にドラえもんが登場するけど、野球漫画です。試合前に指定されたひみつ道具が使えるとか、特別なルールがある。でも、ペタンハンド(丸い手)にボール握らせてる時点で無理があるよ。
児童向けのコミックスではわりと売れている方です。
『ドラえもん』には〈てんとう虫コミックス〉未収録でも面白い作品が多いです。これだけ国民に愛されているにもかかわらず、読めない作品があるのは理不尽。いつまでも一度世に出した作品に製作者側や遺族が固執しているのは単なるエゴ。作品はファンの物です。F先生さえ生きていれば…
『ドラえもんに』限らず、現在読めないF先生作品は多いです。『オバケのQ太郎』にかんしてはスタジオ・ゼロ(藤子不二雄A、石ノ森章太郎等とともに設立したアニメスタジオ)の作品だったこともあり、現在手に入るものが、ほとんど無い状態。『熱血コロコロ伝説』に『新オバケのQ太郎』が一部付録として付いたが、『新』はF先生単独作なので、出しやすかったのだろうが、其の他の『オバQ』が、何故刊されないかは不明。個人的に『新オバQ』と『パーマン』は『ドラえもん』より名作だと思っています。
以前は『藤子不二雄ランド』という全集的なシリーズがあってそこにかなりの未収録作が入っていたけど、現在絶版。藤子不二雄Aの作品のみ復刊されている。
藤子・F・不二雄全集が出てほとんどの作品を気軽に読めることを願います。
まとめとしては、
〈てんとう虫コミックス〉全45巻、〈プラス〉現在5巻、〈カラー作品集〉現在6巻を抑えて、続巻を待つ。というのが基本的な『ドラえもん』の買い方ですが、〈カラー作品集〉に品切れの巻があるので、中途半端です。
それで飽き足らない場合は〈大長編ドラえもん〉を集めましょう。
私自身は『ドラえもん』の魅力は短篇にあり。と思っているので、大長編の優先順位は低いです。
全巻揃えるつもりがない人は、〈ドラえもん巻頭まんが作品集〉を、買えば良いでしょう。〈コロコロ文庫〉のテーマ別アンソロジーは、気に入ったテーマがあれば別ですが、そうでもないなら〈てんとう虫コミックス〉の適当な巻を選んだほうが、安くて良いです。
書店に置くべき優先順位は、コミックスの重要度より、売れ行きの事も考えて以下のようになりました。
- 〈てんとう虫コミックス〉全45巻
- 〈プラス〉5巻〜
- 〈大長編ドラえもん〉24巻〜
- 〈コロコロ文庫〉全18巻
- 〈ドラえもん巻頭まんが作品集〉全2巻
- 〈カラー作品集〉6巻〜
- 〈熱血!!コロコロ伝説〉5冊〜
- 〈ぴっかぴかコミックス〉全15巻、カラー版1巻、ドラミちゃん1巻
- 〈ぼく、ドラえもん〉全25巻
- 〈もっと!ドラえもん〉全5巻
〈カラー作品集〉と〈ぴっかぴかコミックス〉は品切れで揃わないので、単行本としての価値は高いが優先順位は低く、〈ぼく、ドラえもん〉と〈もっと!ドラえもん〉は商品が箱形でかなりの売り場スペースを取ってしまうので、そうとう大きな書店以外はそろえられないでしょう。これらは重版予定の可能性はもう低いので、品切れたらそれっきりでしょう。
完全版「藤子・F・不二雄全集」あるいは完全版「ドラえもん」が発売される日はやってくるのだろうか…
『不安の立像』諸星大二郎 「不安の立像」所収 集英社
この作品は1973年に発表された作品です。今から30年以上も前のもので、舞台となっているのは中央線を思わせる都市の中を走る路線で、季節は夏。電車内にはまだクーラーなどなく、首振りの扇風機が備え付けられている。それゆえ通勤時の車内はとても暑苦しそうで、効き過ぎるくらい冷房の入った現在では想像もできない感じだ。そんな今よりもはるかにストレスのたまりそうな電車で日々会社に通勤するサラリーマンを主人公にしたこの漫画ではあるが、ここに描かれている怖さは現在でも色あせてしまうような類いのものではない。「不安の立像」というタイトルにあるとおり、読了後なにか言い知れぬ不安に襲われるのだが、しばし不安の立像とは何だったのかと思い巡らしその正体に気づいた時にその不安が恐怖に転化するという、いかにも諸星らしい奥の深い作品になっている。その〈不安の立像〉とは何なのであろう? 物語はこんな内容である。
主人公であるサラリーマンの男は、毎日の通勤ラッシュ時に社会の歯車の一つにすぎない自分や、周りの連中にいらだちながらも、平凡な日々をおくっている。そしてある時車内から、駅の近くの線路ぎわに立つ、黒い布をすっぽり被ったような人を見かける。その影法師は夕方になるといつも現れてはそこに立っているのだが、同僚にその事を尋ねると「ああ、あれか。そういえば大抵いるな」と気づいてはいるのだが、まったくの無関心な様子だった。疑問に思った男は途中の駅で降り、駅員に影法師について訊ねてみると「さあて… わたしがここに勤務する前からずっといるようですがねー。注意してみたことないから、よくわかりませんねえ。あれがなにか?」と答え、近くで工事をしている作業員に訊ねてみても「気がつかなかったな。そういえば何かいるな」「別に邪魔にならんからほっぽってあるがよ… なんであんなもんのこと聞くんだね?」と、皆一様に無関心なのだった。男は影法師に近付いて声をかけてみる。すると影法師はささっと逃げるようにして物陰に隠れる。動きは確かに人間のようだが、そのびくびくとしたいじけた様子に驚く。そんな影法師の正体を探る男の行動に恋人も「どうかしてるわ」と言ってくる。「東京に得体のしれないものがいて、君は気にならないのか?」そう聞くと「いたっていいじゃない、何も悪いことをするじゃなし」と呆れるばかりだった。男は深夜まで待ち影法師を見張った。以下ネタバレがあります。これから「不安の立像」を読もうと思っている人は読了後に読んでください。(四角の中のテキストを選択して反転させると読めます)
終電が無くなったころ影法師は歩き出したので、後を追ってみると、市街にある地下道に降りていき、壊れた壁のすき間の中へ入っていこうとした。男は影法師に逃げられまいと掛けている黒い布をつかむとスルリと布がはだけて、その本体はすき間の闇の中へと消えていった。彼は影法師に触れた時の感触と、その布の下に一瞬見えた異様なものに対して、言いようのないおぞましい感覚におそわれ恐怖するのだった。後日その地下道の壁のすき間を探ってみたが、工事の手違いか壊れたままで、中は行き止まりだった。相変わらず影法師は線路ぎわに立っているが、男は触れてはならぬものに関わった気がして、もう二度とその正体を探ろうという気は起きなかった。そんなある日男が車内からぼんやりと外を眺めていると、件の駅を通過する時に向かいの線路の飛び込み自殺を目撃してしまう。すると影法師が現場の近くにやって来て、何かを拾い口元へ運び、線路を舐めるような行動をしたのを見る。以下主人公のモノローグからの引用です。
「大部分の乗客はとびこみ自殺をした男に注意を奪われたが… わたしはその回送電車の窓ごしにはっきりと見た! そしてわたしは理解したのだ! 私のような人間がいる所ならどこにでも… おそらく東京中のあらゆる線路ぎわに彼ら 影はいて 誰かがそのレールの上で死ぬのをただじっと待ち続け… 飛び散ったわずかな肉の一片を喰らい 枕木に染みついた一滴の血をなめるために いじいじと ガツガツと その渇望がほんのわずかいやされる時をただひたすら待って 立ち続けるのだ… あの地下の道の奧… あの暗闇はどこへ続いていたのだろう 私はあの暗闇からさらに深い闇へと続く… 何か見えない通路があるような気がしてならなかった そしてあるいはその闇は… 私自身の意識の暗闇にどこかでつながっているのではないだろうか… …餓鬼…」
そう。〈不安の立像〉とは誰もが持つ意識の底にある暗闇なのだ、その暗闇とは他人の不幸に対して好奇の目を持ってしまうこと。自分に係わりのない事なら、不幸が起こる事に期待してしまう事なのだ。人は他人の不幸に対して同情し、心配したり、心を痛めたりするが、その反面でその不幸が自分でなかった事に安堵し、優越感をもち、刺激を得ようとする。そして皆そういった思い
が自分の心の底にある事に薄々気づいてはいる。しかしそれを認めてしまう事は怖い。だから作中に出てきた同僚も駅員も作業員も恋人も皆、見て見ぬふりをする。「注意してみた事がない」そう言って見過ごし「誰にも迷惑はかけていない」とい言ってほっぽておく。その「いじいじと ガツガツと」した意識は単調で刺激のない日常の繰り返しの中で沸き上ってしまうものだ。諸星はそんな人々の意識を痛烈にマンガにしてしまった。だからこれを読んだ時、自分の心を見透かされているような気がして、ぞっとした。
これが書かれた30年前よりも現在は日本中に都市化が広まり、単調で空疎な日常も全国的になった。もはやほとんどの人の心の奥底にこの影法師はいる。そして、影法師の正体を知ってしまった男はその後どうしたか? 彼はまた単調な日常に戻り、更にその日常に埋没する事によって、その意識から目を背けるようにするのだ。心の闇を知ってしまう恐怖よりも、社会からはみ出てしまう事の恐怖の方がより強いと感じてしまう現代人の極めてリアルな姿がここには描かれている。
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 創美社
- 発売日: 1993/05/10
- メディア: コミック
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書店員のための『ゲゲゲの鬼太郎』講座
ピークは過ぎたけど、最近またもブームっぽい『ゲゲゲの鬼太郎』ですが、各出版社から色々と出ていて何がなんなのか? 何から読めばいいのか? と混沌としています。この前知り合いから問い合わせを受けて、簡潔に答えられなかったので、ここにまとめます。
まとめるといっても、「鬼太郎サーガ」の出版事情は混沌としていて、多くの作品が、貸本時代の作品のリライトだったりすることもあり、『ドラえもん』と並んで複雑。ですからかなりざっくりと本屋として知っていれば良い程度書きます。
現在流通しているもの中心。コンビニ展開用の物は外してあります。
『ゲゲゲの鬼太郎』は1954年の紙芝居版に端を発していますが、大まかに分けて〈貸本版〉〈マガジン版〉〈サンデー版〉〈新編マガジン版〉〈コミックボンボン版〉〈その他〉の六つのバージョンがあると覚えておくと、書店員的に楽です。(時代的な区分ではありません)
- 〈貸本版〉
- 1959年から1964年にかけて幾つかの出版社から出ていたもので、『墓場鬼太郎』とか『鬼太郎夜話』のタイトルがつけられています。この頃の鬼太郎は、関わった人々に怪奇な結末をもたらす不吉な少年。という設定で、現在の人間の味方という感じではない。絵もやや時代がかった古臭い感じで、のちの繊細で美しい背景はあまり描かれていない。
- 〈マガジン版〉
- 〈サンデー版〉
- 1971年の再アニメ化に合わせて「週刊少年サンデー」で連載開始。13話で終了。
- 〈新編マガジン版〉
- 「ボンボン版」
- 1990年から「コミックボンボン」と「デラックスボンボン」で連載された『鬼太郎国取り物語』のこと。
- 〈その他〉
で、今流通している主なタイトルと内容に関して。
『ゲゲゲの鬼太郎 少年マガジン/オリジナル版』講談社漫画文庫 全5巻
少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(1) (講談社漫画文庫)
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/04/03
- メディア: 文庫
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しかし、5巻の全部が、中公文庫版の1巻と2巻の一部とかぶってしまいます。ですから、中公文庫版もそろえたい人は5巻のみ買う必要は無いかもしれません。(4巻も1作だけかぶっている)しかし、5巻には関東水木会の平林重雄氏による「鬼太郎作品総リスト」がついています。これは歴史に残る大偉業だと思います、個人的に。ですので、そのリストを手に入れるだけでも価値があります。もっとマニアックに鬼太郎を知りたい人には、平林重雄氏の『水木しげると鬼太郎変遷史』がお勧め。これに総リストが入っているので5巻の代わりに買うのもいいかも。高額ですけどね。
(『水木しげると鬼太郎変遷史』は下の方で紹介しています。)
『ゲゲゲの鬼太郎』中公文庫 第1期 全9巻
ゲゲゲの鬼太郎 1 鬼太郎の誕生 (中公文庫 コミック版 み 1-5)
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/02/01
- メディア: 文庫
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『墓場鬼太郎』
墓場鬼太郎 (1) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-7))
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/08/01
- メディア: 文庫
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「水木しげるコレクション」角川文庫 全5巻
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1995/10/01
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ただし、中公文庫版第二期次第では必要なくなるシリーズなのかも知れません。中公文庫版第二期はまだ内容も時期も不明なので何とも言えませんが。
『鬼太郎国盗り物語』角川文庫 全3巻
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/04/01
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『ゲゲゲの鬼太郎死神大戦記』角川文庫 上下2巻
ゲゲゲの鬼太郎死神大戦記 (上) (角川文庫 (み18-54))
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/08/01
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『ゲゲゲの鬼太郎』ちくま文庫 全7巻
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1994/07/01
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しかし、ちくま文庫版には特徴があって、他のほとんどの出版社の本が白っぽい紙を使っているのに対し、ちくま文庫はクリーム色の紙を使っています。水木しげるの繊細な背景画などは、白の紙の方がくっきりとして映えるのですが、クリーム色の方が、少し古めかしいオドロオドロしい感じがしていいと思う人もいるかも知れません。好み次第ですね。
『鬼太郎夜話』ちくま文庫
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1992/07/01
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『水木しげると鬼太郎変遷史』によると、今出版されている『鬼太郎夜話』は、「ガロ」に掲載されていた、544ページのオリジナル版をカット&改訂した470ページのバージョンだそうです。最近でた中公文庫8巻もちくま版と変わらなかったので、カット版でした。オリジナルが読んでみたいですね。
『鬼太郎のお化け旅行』ちくま文庫
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1991/07/01
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『京極夏彦が選ぶ!水木しげるの奇妙な劇画集』ちくま文庫
- 作者: 水木しげる,京極夏彦
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2001/06/01
- メディア: 文庫
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『鬼太郎国取り物語』 講談社コミックスボンボン 全5巻
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/07/20
- メディア: コミック
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『ゲゲゲの鬼太郎』 中央公論新社 全5巻
ゲゲゲの鬼太郎 (第1巻) 中公愛蔵版 (CHUKO★COMICS)
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1988/09/20
- メディア: 単行本
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元々品切れでしたが、2007年4月に公開された、実写版映画に合わせて重版されたらしいです。A5版型、ソフトカバーで分厚いのが特徴です。
中公文庫版はこの愛蔵版が元になっていて、先に刊行が始まっていた、『ゲゲゲの鬼太郎 少年マガジン/オリジナル版』と作品があまりかぶらないように〈マガジン版〉を抜いて構成されたものです。ですから、この中公の愛蔵版は、講談社文庫版の一部+中公文庫版になります。普通に鬼太郎を集めたかったら、この愛蔵版ではなくて、文庫で集めた方がいいと思います。しかし、あまり手広く集める必要の無い人はこのシリーズで揃えて終わりにしてもいいかもしれません。文庫版よりサイズが大きいので、絵に迫力があります。
『ゲゲゲの鬼太郎妖怪千物語』 講談社コミックスボンボン 現在4巻まで
ゲゲゲの鬼太郎 妖怪千物語(1) (講談社コミックスボンボン)
- 作者: ほしの竜一,水木しげる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/03/16
- メディア: コミック
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以上が大まかだけど、出てる分の概要。
どれを買えばいいのか? というのは、
- 『ゲゲゲの鬼太郎 少年マガジン/オリジナル版』講談社漫画文庫 全5巻
- 『ゲゲゲの鬼太郎』中公文庫 第1期 全9巻
- 「水木しげるコレクション」角川文庫 全5巻
- 『鬼太郎国盗り物語』角川文庫 全3巻
- 『ゲゲゲの鬼太郎死神大戦記』角川文庫 上下2巻
- 『京極夏彦が選ぶ!水木しげるの奇妙な劇画集』
という順番に買えばほぼ完璧。古いダークな味わいもほしいなら、
- 角川文庫の貸本版『墓場鬼太郎』全6巻
を。他のいくつかの作品は中公文庫の第二期に期待しましょう。そうすれば、あまり作品が被ることなく、『鬼太郎』がそろえられます。
なるべくなら貸本版の次に描かれた講談社文庫版を最初にそろえた方がいいかも。この第1巻に入っている巻頭の特集記事復刻に鬼太郎の誕生エピソードのあらすじが載っているので、いきなりこれから初めてもOK。
鬼太郎誕生のエピソードから入りたいのなら中公文庫版からそろえるのもいいかも。しかしこれは、「ガロ」に掲載された貸本版のリメイクなので描かれたのは、「少年マガジン」で連載が始まった後です。
基本が以下で、
他は被っていたりするので、あまり買う必要は無いです。中公文庫の第二期刊行に期待しましょう!
書店員的には、スペースに限りがある以上、上の7種類あれば大丈夫だと思います。更にスペースない場合は基本の4点あれば大丈夫ではないかと。さらに削りたい場合は角川文庫「水木しげるコレクション」を1巻と3巻だけにするという手もあります。
『水木しげると鬼太郎変遷史』YMブックス。
- 作者: 平林重雄,向笠修司
- 出版社/メーカー: やのまん
- 発売日: 2007/05/25
- メディア: 単行本
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関東水木会とは水木しげるを支援するためにファンによって立ち上げられた団体で、荒俣宏や京極夏彦なんかが会員という強力なもの。京極夏彦は作家デビュー前から、この会員としてイベントなんかで撮影したビデオを編集したりする作業をしていたらしいです。私の様なにわかファンとは気合いも年期も違いますね。
以上は全て私個人の認識であって、間違っている点も多々あると思います。間違っているところがわかり次第訂正していくつもりです。
ちなみに、紙芝居版で現存するものはないし、ありとあらゆる所に『鬼太郎』は掲載されているので、コレクションしようとか、コンプリートしようとか思うと土ツボにはまるので、人間やめて仙人になろうと思う人以外はやめたほうがいいです。
『ヴィタール』 塚本晋也監督 DVD
ストーリー
医学生の高木博史(浅野忠信)は交通事故からかろうじて一命を取り留めるが、父・隆二(串田和美)や母・慎子(りりィ)の顔さえ分からず、すべての記憶を失っていた。自分が一体誰なのか、どこにいるのかー居場所のない自分を抱えさまよい始める博史だったが、医学書にだけは興味を示し、大学の医学部に入学する。やがて2年生の必須科目である解剖実習が始まり、博史の班に若い女性の遺体が割りあてられた。空白を埋めるかのように解剖にのめり込んでいく博史は、解剖を続けるにつれ、現実とは異なる世界へとフラッシュしていく。それは涼子(柄本奈美)という女性と自分とが一緒に過ごす、甘く切ない、記憶を超えた映像だった。
一方、実習室では、博史へのもうひとつの強い感情がうずまいていた。それは同級生の吉本郁美(KIKI)の存在によるものだった。彼女は、かつて恋愛関係にあった中井教諭(利重剛)を自殺させた原因が自分にあるという思いを抱え、博史に同じ“死”の臭いを感じて接近する。しかし、博史はまるで現実感がない。
博史の見る映像は鮮明になり、彼は、もうひとつの世界で涼子がダンスを踊ったことを、涼子の父・大山三郎(國村隼)と母・のり子(木野花)に報告しはじめる。同級生の解剖のやり方に耐えられなくなり、自分の班のご遺体をひとりで担当したいと、博史は、柏淵教授(岸部一徳)に申し出る。そして、その肉体を愛するかように解剖を続けていく。雨が博史の記憶を呼び覚ますように激しく降り始めた。
もう一つの世界が確かなリアリティを持ちはじめ、博史は、どちらが本当の現実なのかを次第に見失い、様相は死体さながらになっていく。
涼子の腕に刻まれた“印”に思い至った博史は、肉体にこめられた強い思いを知ることとなる。
公式HPより
博史が見てしまう恋人との映像とは何なのであろう?
主人公の博史は、事故で記憶を失ってしまう。人間にとって記憶こそがその人の存在基盤であって、自己を支えているものである。人間には意識があるが、その意識の存在を肯定するはずの記憶が大きく欠落していると、自分自身が物でしかないような空虚な思いに捕らわれる。
そんなおり、彼が解剖実習を行っている献体が、元の恋人であった涼子である事を知る。虚無感を感じるのは人間に意識があるからである。博史が涼子の解剖に没頭していくのは人体の中のどこに意識が存在するのか? その秘密を探るためなのであろう。これまでの博史は現実世界を執拗なまでに絵に描く事で、世界の仕組みを探ろうとしていた男だ。彼が執拗に人体を描写する事で探しているのは意識の秘密なのだと思う。だが人体をいくら探ったところで、意識がどこにあるかなど解らない。だから博史は次第に彼女の幻想を見始める。それは人体の中に意識を見いだせなかったために、博史が勝手に作り上げていった物なのだと思う。
幻想のなかの涼子は踊る。現実では涼子は踊りなどやっていなかったと父親は言う。なぜ涼子は踊るのであろうか? 解剖を通じて意識の秘密は得られなかったが、その代わりに博史が得たのは生命の躍動(ヴィタール)である。人の生命力がいかに強く機能しているかを解剖をへて知る。それまで笑った事の無い、踊った事の無い涼子が博史の幻想の中では、踊り、笑い、泣くのは、博史が涼子の身体を通じて知った生命の象徴だからなのだと思う。
映画の中には虚無感をかかえた博史の意識の他にも、様々な意識の様子が出てくる。もう一人の医学生邦美は医学生の中でもエリート中のエリートで人間を物のような感覚でとらえていた。自分の捨てた元恋人が自殺してしまったせいで、死という問題に直面し、博史と涼子の関係に嫉妬する事によって感情を爆発させ、彼女なりの生命の躍動感を得る。
しかし一番強い意識は涼子のものだ。父親が娘の身体を大学病院に渡したのも、柏淵教授が涼子の解剖を博史にやらせたのも、全ては涼子の意志だ。死をそれで終わらせてしまいたくないという強い思い。死してなお人々の意識に侵食して残り続ける死者の意識という物がここに描かれている。
博史は死体の解剖を通じて生命の躍動を感じ、生の実感を得た。彼女が荼毘にふせられる時に火葬場で悲しむ博史に、生を取り戻した姿が描かれている。
ラストシーンで涼子が見る今までで一番好きな場面には、なんでもない日常の中の博史と、日常の中の自然が映し出される。その一番大切である何気ない日常を支えているからこそ命というのはすごい物なのかなと思う。
役者陣もすごく、浅野忠信はあいかわらずの演技力で、もはや一言一言が神がかって聞こえる。そして今回の最大の収穫が女優としてのKIKIであろう。キレイで頭も良くセンスもいい。こんな女性がいたりするのだから恐ろしい。ダンサーである柄本奈美の自然な演技も浅野とうまく合っていた。國村隼、岸部一徳のベテランの演技も見物だ。
そして最後に流れるCOCCOの主題歌が美しすぎる。