書店員のための『ゲゲゲの鬼太郎』講座

ピークは過ぎたけど、最近またもブームっぽい『ゲゲゲの鬼太郎』ですが、各出版社から色々と出ていて何がなんなのか? 何から読めばいいのか? と混沌としています。この前知り合いから問い合わせを受けて、簡潔に答えられなかったので、ここにまとめます。
まとめるといっても、「鬼太郎サーガ」の出版事情は混沌としていて、多くの作品が、貸本時代の作品のリライトだったりすることもあり、『ドラえもん』と並んで複雑。ですからかなりざっくりと本屋として知っていれば良い程度書きます。
現在流通しているもの中心。コンビニ展開用の物は外してあります。
ゲゲゲの鬼太郎』は1954年の紙芝居版に端を発していますが、大まかに分けて〈貸本版〉〈マガジン版〉〈サンデー版〉〈新編マガジン版〉〈コミックボンボン版〉〈その他〉の六つのバージョンがあると覚えておくと、書店員的に楽です。(時代的な区分ではありません)

  • 〈貸本版〉
    • 1959年から1964年にかけて幾つかの出版社から出ていたもので、『墓場鬼太郎』とか『鬼太郎夜話』のタイトルがつけられています。この頃の鬼太郎は、関わった人々に怪奇な結末をもたらす不吉な少年。という設定で、現在の人間の味方という感じではない。絵もやや時代がかった古臭い感じで、のちの繊細で美しい背景はあまり描かれていない。
  • 〈マガジン版〉
    • 1965年から初のメジャー誌「週刊少年マガジン」に掲載されます。最初の頃はタイトルも『墓場の鬼太郎』。内容も不吉な少年タイプ。幾つかの読みきり掲載ののち、1967年から正式連載。そこから鬼太郎は正義の味方になり、妖怪って言葉も使われ始めます。1968年のアニメ化にあたって『ゲゲゲの鬼太郎』に改題。妖怪ブームがやってきて、1969年に連載終了。
  • 〈サンデー版〉
  • 〈新編マガジン版〉
  • 「ボンボン版」
    • 1990年から「コミックボンボン」と「デラックスボンボン」で連載された『鬼太郎国取り物語』のこと。
  • 〈その他〉


で、今流通している主なタイトルと内容に関して。

ゲゲゲの鬼太郎 少年マガジン/オリジナル版』講談社漫画文庫 全5巻

少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(1) (講談社漫画文庫)

少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(1) (講談社漫画文庫)

講談社漫画文庫、全5巻。少年マガジンの連載を雑誌掲載時のまま復刻掲載。特集記事なんかもカラーで掲載。〈新編マガジン版〉は入っていません。
しかし、5巻の全部が、中公文庫版の1巻と2巻の一部とかぶってしまいます。ですから、中公文庫版もそろえたい人は5巻のみ買う必要は無いかもしれません。(4巻も1作だけかぶっている)しかし、5巻には関東水木会の平林重雄氏による「鬼太郎作品総リスト」がついています。これは歴史に残る大偉業だと思います、個人的に。ですので、そのリストを手に入れるだけでも価値があります。もっとマニアックに鬼太郎を知りたい人には、平林重雄氏の『水木しげると鬼太郎変遷史』がお勧め。これに総リストが入っているので5巻の代わりに買うのもいいかも。高額ですけどね。
(『水木しげると鬼太郎変遷史』は下の方で紹介しています。)
少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(1) (講談社漫画文庫)少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(2) (講談社漫画文庫)少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(3) (講談社漫画文庫)少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(4) (講談社漫画文庫)少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(5) (講談社漫画文庫)

ゲゲゲの鬼太郎』中公文庫 第1期 全9巻

中公文庫、第1期全9巻。現在8巻まで。〈新編マガジン版〉〈サンデー版〉と「ガロ」掲載の『鬼太郎の誕生』『鬼太郎夜話』、「少年アクション」掲載の『お化け旅行』などから収録。基本的には1巻と2巻の一部以外は講談社漫画文庫とは被っていません。
ゲゲゲの鬼太郎 1 鬼太郎の誕生 (中公文庫 コミック版 み 1-5)ゲゲゲの鬼太郎 2 妖怪反物 (中公文庫 コミック版 み 1-6)ゲゲゲの鬼太郎 (3) (中公文庫―コミック版)ゲゲゲの鬼太郎 4 猫町切符 (中公文庫 コミック版 み 1-8)ゲゲゲの鬼太郎 5 豆腐小僧 (中公文庫 コミック版 み 1-9)ゲゲゲの鬼太郎 6 ペナンガラン (中公文庫 コミック版 み 1-10)ゲゲゲの鬼太郎 7 鬼太郎地獄編 (中公文庫 コミック版 み 1-11)ゲゲゲの鬼太郎 8 鬼太郎夜話 上 (中公文庫 コミック版 み 1-12)

墓場鬼太郎

墓場鬼太郎 (1) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-7))

墓場鬼太郎 (1) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-7))

角川文庫、全6巻。貸本時代の作品を再編集したもの。古い鬼太郎が読めますが、絵がどうしても昔の劇画のような感じで、点描なんかを用いた繊細な背景はまだでてきません。そのぶんオドロオドロしいとも言えますけど。メジャー誌に移ってから描かれた作品にはこの貸本時代の作品からのリライトがいくつかあるので、話しの内容が講談社文庫版や中公文庫版なんかの作品とかぶるのもあります。
墓場鬼太郎 (1) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-7))墓場鬼太郎 (2) 貸本まんが復刻版 (角川文庫)墓場鬼太郎 (3) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-9))墓場鬼太郎 (4) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-10))墓場鬼太郎 (5) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-11))墓場鬼太郎 6 (角川文庫 み 18-12)

水木しげるコレクション」角川文庫 全5巻

角川文庫「水木しげるコレクション」全5巻。〈新編マガジン版〉を幾つかと〈その他〉に入る、『週刊実話』やポプラ社のシリーズなどを掲載。〈新編マガジン版〉は幾つか中公文庫と被ってますが、それ以外は中公文庫版と収録分を補完し合う形になっているので、買う価値は十分にあり。特に3巻の『雪姫ちゃんとゲゲゲの鬼太郎』は独立しているのでかぶりは無しです。
ただし、中公文庫版第二期次第では必要なくなるシリーズなのかも知れません。中公文庫版第二期はまだ内容も時期も不明なので何とも言えませんが。
鬼太郎の地獄めぐり (角川文庫―水木しげるコレクション)ねずみ男とゲゲゲの鬼太郎 (角川文庫―水木しげるコレクション)雪姫ちゃんとゲゲゲの鬼太郎 (角川文庫―水木しげるコレクション)ゲゲゲの森の鬼太郎 (角川文庫―水木しげるコレクション)天界のゲゲゲの鬼太郎 (角川文庫―水木しげるコレクション)

『鬼太郎国盗り物語』角川文庫 全3巻

鬼太郎国盗り物語 1 (角川文庫 み 18-13)

鬼太郎国盗り物語 1 (角川文庫 み 18-13)

角川文庫、全3巻。〈コミックボンボン版〉つまり『鬼太郎国取り物語』が掲載。他の文庫版とはかぶっていません。
鬼太郎国盗り物語 1 (角川文庫 み 18-13)鬼太郎国盗り物語 2 (角川文庫 み 18-14)鬼太郎国盗り物語 3 (角川文庫 み 18-15)

ゲゲゲの鬼太郎神大戦記』角川文庫 上下2巻

角川文庫、上下2巻。「学研劇画文庫・日本の妖異」シリーズとして学研から出た書き下ろしだったものです。これも他にかぶっている文庫版はありません。
ゲゲゲの鬼太郎死神大戦記 (上) (角川文庫 (み18-54))ゲゲゲの鬼太郎死神大戦記 下 (角川文庫 み 18-55)

ゲゲゲの鬼太郎ちくま文庫 全7巻

ゲゲゲの鬼太郎 (1) (ちくま文庫)

ゲゲゲの鬼太郎 (1) (ちくま文庫)

ちくま文庫、全7巻。〈マガジン版〉〈サンデー版〉中心に収録しているので、中公文庫、講談社漫画文庫なんかとかなり、被ってます。講談社文庫版、中公文庫版、角川文庫版を集めていけば買う必要の無いシリーズ。
しかし、ちくま文庫版には特徴があって、他のほとんどの出版社の本が白っぽい紙を使っているのに対し、ちくま文庫はクリーム色の紙を使っています。水木しげるの繊細な背景画などは、白の紙の方がくっきりとして映えるのですが、クリーム色の方が、少し古めかしいオドロオドロしい感じがしていいと思う人もいるかも知れません。好み次第ですね。
ゲゲゲの鬼太郎 (1) (ちくま文庫)ゲゲゲの鬼太郎 (2) (ちくま文庫)ゲゲゲの鬼太郎 (3) (ちくま文庫)ゲゲゲの鬼太郎 (4) (ちくま文庫)ゲゲゲの鬼太郎 (5) (ちくま文庫)ゲゲゲの鬼太郎 (6) (ちくま文庫)ゲゲゲの鬼太郎 (7) (ちくま文庫)

『鬼太郎夜話』ちくま文庫

鬼太郎夜話 (ちくま文庫 (み4-16))

鬼太郎夜話 (ちくま文庫 (み4-16))

ちくま文庫、全1巻。ガロ掲載の『鬼太郎夜話』を収録。これは、貸本時代の作品のリメイク。おそらく中公文庫の8巻、9巻に被ります。
水木しげると鬼太郎変遷史』によると、今出版されている『鬼太郎夜話』は、「ガロ」に掲載されていた、544ページのオリジナル版をカット&改訂した470ページのバージョンだそうです。最近でた中公文庫8巻もちくま版と変わらなかったので、カット版でした。オリジナルが読んでみたいですね。

『鬼太郎のお化け旅行』ちくま文庫

ちくま文庫、全1巻。『少年アクション』に掲載されていた「お化け旅行」を収録。中公文庫の3巻に被ります。

京極夏彦が選ぶ!水木しげるの奇妙な劇画集』ちくま文庫

ちくま文庫、全1巻。鬼太郎だけの収録ではないけど、今まで未収録だったものや、水木が今のところ最後に描いた鬼太郎が読めます。

『鬼太郎国取り物語』 講談社コミックスボンボン 全5巻

鬼太郎国盗り物語(1) (講談社コミックスボンボン)

鬼太郎国盗り物語(1) (講談社コミックスボンボン)

講談社コミックスボンボン、全5巻、現在4巻まで。『鬼太郎国取り物語』が本家の 講談社コミックスボンボンに登場。角川文庫の『鬼太郎国取り物語』とまる被り。
鬼太郎国盗り物語(1) (講談社コミックスボンボン)鬼太郎国盗り物語(2) (講談社コミックスボンボン)鬼太郎国盗り物語(3) (講談社コミックスボンボン)鬼太郎国盗り物語(4) (講談社コミックスボンボン)

ゲゲゲの鬼太郎中央公論新社 全5巻

ゲゲゲの鬼太郎 (第1巻) 中公愛蔵版 (CHUKO★COMICS)

ゲゲゲの鬼太郎 (第1巻) 中公愛蔵版 (CHUKO★COMICS)

中央公論新社、全5巻、愛蔵版
元々品切れでしたが、2007年4月に公開された、実写版映画に合わせて重版されたらしいです。A5版型、ソフトカバーで分厚いのが特徴です。
中公文庫版はこの愛蔵版が元になっていて、先に刊行が始まっていた、『ゲゲゲの鬼太郎 少年マガジン/オリジナル版』と作品があまりかぶらないように〈マガジン版〉を抜いて構成されたものです。ですから、この中公の愛蔵版は、講談社文庫版の一部+中公文庫版になります。普通に鬼太郎を集めたかったら、この愛蔵版ではなくて、文庫で集めた方がいいと思います。しかし、あまり手広く集める必要の無い人はこのシリーズで揃えて終わりにしてもいいかもしれません。文庫版よりサイズが大きいので、絵に迫力があります。
ゲゲゲの鬼太郎 (第1巻) 中公愛蔵版 (CHUKO★COMICS)ゲゲゲの鬼太郎 (第2巻) 中公愛蔵版 (CHUKO★COMICS)ゲゲゲの鬼太郎 (第4巻) 中公愛蔵版 (CHUKO★COMICS)ゲゲゲの鬼太郎 (第3巻) 中公愛蔵版 (CHUKO★COMICS)ゲゲゲの鬼太郎 (第5巻) (CHUKO★COMICS)

ゲゲゲの鬼太郎妖怪千物語』 講談社コミックスボンボン 現在4巻まで

講談社コミックスボンボン、現在4巻まで、以下続刊。これは今『コミックボンボン』に連載している、水木プロ協力、ほしの竜一による別の作者の作品。なので、完全子供向け。『コミックボンボン』も無くなっちゃうし。
ゲゲゲの鬼太郎 妖怪千物語(1) (講談社コミックスボンボン)ゲゲゲの鬼太郎 妖怪千物語(2) (講談社コミックスボンボン)ゲゲゲの鬼太郎 妖怪千物語(3) (講談社コミックスボンボン)ゲゲゲの鬼太郎 妖怪千物語(4) (講談社コミックスボンボン)

以上が大まかだけど、出てる分の概要。
どれを買えばいいのか? というのは、

  1. ゲゲゲの鬼太郎 少年マガジン/オリジナル版』講談社漫画文庫 全5巻
  2. ゲゲゲの鬼太郎』中公文庫 第1期 全9巻
  3. 水木しげるコレクション」角川文庫 全5巻
  4. 『鬼太郎国盗り物語』角川文庫 全3巻
  5. ゲゲゲの鬼太郎神大戦記』角川文庫 上下2巻
  6. 京極夏彦が選ぶ!水木しげるの奇妙な劇画集』

という順番に買えばほぼ完璧。古いダークな味わいもほしいなら、

を。他のいくつかの作品は中公文庫の第二期に期待しましょう。そうすれば、あまり作品が被ることなく、『鬼太郎』がそろえられます。
なるべくなら貸本版の次に描かれた講談社文庫版を最初にそろえた方がいいかも。この第1巻に入っている巻頭の特集記事復刻に鬼太郎の誕生エピソードのあらすじが載っているので、いきなりこれから初めてもOK。
鬼太郎誕生のエピソードから入りたいのなら中公文庫版からそろえるのもいいかも。しかしこれは、「ガロ」に掲載された貸本版のリメイクなので描かれたのは、「少年マガジン」で連載が始まった後です。


基本が以下で、

  1. ゲゲゲの鬼太郎 少年マガジン/オリジナル版』講談社漫画文庫 全5巻
  2. ゲゲゲの鬼太郎』中公文庫 第1期 全9巻
  3. 水木しげるコレクション」角川文庫 全5巻
  4. 『鬼太郎国盗り物語』角川文庫 全3巻

少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(1) (講談社漫画文庫)ゲゲゲの鬼太郎 1 鬼太郎の誕生 (中公文庫 コミック版 み 1-5)鬼太郎国盗り物語 1 (角川文庫 み 18-13)
応用編が以下。

  1. 墓場鬼太郎 貸本まんが復刻版』角川文庫 全6巻
  2. ゲゲゲの鬼太郎神大戦記』角川文庫 上下2巻
  3. 京極夏彦が選ぶ!水木しげるの奇妙な劇画集』

墓場鬼太郎 (1) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-7))ゲゲゲの鬼太郎死神大戦記 (上) (角川文庫 (み18-54))京極夏彦が選ぶ!水木しげるの奇妙な劇画集 (ちくま文庫)
他は被っていたりするので、あまり買う必要は無いです。中公文庫の第二期刊行に期待しましょう!
書店員的には、スペースに限りがある以上、上の7種類あれば大丈夫だと思います。更にスペースない場合は基本の4点あれば大丈夫ではないかと。さらに削りたい場合は角川文庫「水木しげるコレクション」を1巻と3巻だけにするという手もあります。

水木しげると鬼太郎変遷史』YMブックス。

水木しげると鬼太郎変遷史

水木しげると鬼太郎変遷史

極めて複雑で雑多な鬼太郎のマンガ出版事情を全部扱ってしまうという、大変な労作。関東水木会の平林重雄氏の著書。やはり関東水木会というのは凄い集団です。
関東水木会とは水木しげるを支援するためにファンによって立ち上げられた団体で、荒俣宏京極夏彦なんかが会員という強力なもの。京極夏彦は作家デビュー前から、この会員としてイベントなんかで撮影したビデオを編集したりする作業をしていたらしいです。私の様なにわかファンとは気合いも年期も違いますね。
以上は全て私個人の認識であって、間違っている点も多々あると思います。間違っているところがわかり次第訂正していくつもりです。
ちなみに、紙芝居版で現存するものはないし、ありとあらゆる所に『鬼太郎』は掲載されているので、コレクションしようとか、コンプリートしようとか思うと土ツボにはまるので、人間やめて仙人になろうと思う人以外はやめたほうがいいです。
参考サイト